ファーストパーティデータでECの「購入の瞬間」のポテンシャルを引き出す

サードパーティCookieの規制やユーザーの購買行動の変化を背景に、小売やEC事業者が持つ顧客接点を生かした新たな広告手法である「リテールメディア」が注目されています。特に2023年はリテールメディア元年と呼ばれ、広告ソリューション各社がECやリテール(小売)に焦点を当てたプロダクトを発表しました。デジタル広告を取り巻く環境が変わりつつある中で、広告運用者はこれらの変化に適応し、情報をキャッチアップしていくことが求められているといえるでしょう。

EC事業者による広告事業参入の動きをグローバルでけん引してきたRoktによる広告主向けソリューション『Rokt Ads』は、ECでの「購入完了の瞬間」に広告が表示される形式が注目を集めています。今回は、Rokt合同会社の大野皓平が、今後の広告運用の在り方を変えるリテールメディアの実態や業界への影響、またRokt Adsの強みについてインタビュー形式で語ります。

※この記事はUnyoo.jpの記事を転載・編集しています。

Rokt合同会社
ビジネス開発 ディレクター
大野皓平さん

聞き手:
アタラ合同会社
コンサルタント
星野理人

 

ECの「購入完了の瞬間」に宿る価値を引き出す

星野:まずは、大野さんの自己紹介をお願いします。

大野:Roktでビジネス開発を担当している大野と申します。キャリアとしては、広告代理店の株式会社アサツー ディ・ケイでのデジタルマーケティングからスタートし、広告運用のプランニングからレポーティングまで担当していました。Web解析などアナリティクス領域や、マスメディアを含めたテレビとデジタルを掛け合わせる統合プランニングも行っていました。

データの重要性を感じていたことから、シナラシステムズジャパン株式会社に移り、位置情報を使った広告配信と来店計測によってマーケティングをどう変えられるかにチャレンジしていました。

Roktではビジネス開発を担当し、ECサイトにおけるリテールメディア化(広告事業立ち上げ)を行いながら、広告主への広告ソリューション(Rokt Ads)の提供を行っています。

星野:Roktのご紹介をお願いします。

大野:Roktは一言で言えばEコマース・マーケティング・テクノロジーの会社です。ECの「購入の瞬間」、これを「トランザクションモーメント」とRoktでは呼んでいますが、その瞬間に秘められたマーケティングポテンシャルを最大限引き出すことをミッションにしております。2012年にオーストラリアで創業し、現在は本社をニューヨークに置いて15カ国で展開しているグローバル企業です。

 

日本におけるリテールメディアの普及の加速とファーストパーティデータへの注目度

星野:日本で普及しているリテールメディアに関して、御社として、そして大野さんとしてはどのように捉えていますか。

大野:近年、リテール(小売業)やEC事業者が自社の持つ顧客接点やデータアセットを活用し、付帯事業として広告事業を立ち上げてマネタイズに取り組む流れがあります。オフラインでは店内のデジタルサイネージなどでの広告、オンラインではECサイト上での広告などが普及してきています。今回はECリテールメディアにフォーカスしてお話ししますが、マーケットの感度が非常に高まってきているのを感じます。

WalmartやAmazonのような米国の大手企業によるリテールメディア事業の成功が認知されてきたことが、その背景にあるのは間違いないでしょう。また、サードパーティCookieがなかなか使えずターゲティングに苦戦しているデジタルマーケティング業界の現状に対し、ECが収集、保有するファーストパーティデータを広告配信に活用するリテールメディアは、より一人一人の顧客のニーズに沿った広告を提供できることから、ECのメディアとしての価値が高まってきていることも背景にあると思います。

新型コロナウイルスの感染拡大も転機としてあったと思います。各社が急速にDXを推進する中で、ECでより収益を上げることに関して積極的になっている流れもあると感じます。例えばRoktでは、コロナ禍には旅行系・チケット系ECサイトがパートナー様として増えました。リアルイベントの開催や旅行の催行ができず、本業であるチケット販売からの収益が減少したため、本業外で新たな収益源を生み出す必要性に直面したのです。そこで、各社の持つ会員基盤や豊富なデータアセットを生かした広告配信にチャンスを見いだされました。

コロナ禍は一方で、多くの業界のEC化を推進することにもつながりました。その代表例が小売(リテール)です。コロナ禍で売上を大きく伸ばしたEC事業の収益性をここからいかに高めていくか各社が戦略を考える中、直近では小売業者によるRoktプラットフォームへの参入が増えてきています。

 

Rokt Adsではポジティブな買い物体験と広告(オファー)が地続き

星野:サードパーティデータが少しずつ使いづらくなる中で、ECの持つファーストパーティデータを活用した広告配信は魅力が高まってきています。Rokt Adsを活用する広告主の業種業界や、広告カテゴリで特徴的なところはありますか。

大野:強いて言えば、Roktと相性がよい条件といえるのは、“よいオファー”がある、ということでしょうか。ECで買い物をした瞬間である「トランザクション・モーメント」は、ユーザーが最もお買い物に対してポジティブな気持ちになっています。そのため、このタイミングで自分にぴったりな、かつお得なオファーが提示されると、エンゲージメントにつながりやすいです。

実際Roktでパフォーマンスが大きく伸びている広告主様の一例としては、ビデオ・オン・デマンドや、フィットネス、人材系、ハウスメーカー、クレジットカードなどがありますが、お分かりのとおり、特定の業種に偏っているわけではありません。逆に、多種多様な広告主様がいることで、一人一人のユーザーにとって最も関連性の高いオファーを出し分けられることが、Roktの強みと言えるかと思います。

星野:クーポンや無料体験などのお得なオファーがあれば、ユーザーのアクションも引き出しやすいということですね。

大野:はい。ただし、お得なだけではなく「自分の興味・関心にぴったりと合っている」というのが前提となります。だからこそ、ファーストパーティーデータに基づく顧客理解が非常に重要です。

星野:Rokt Adsでは、ユーザーがRoktのプラットフォームに参画するECサイトで買い物を終えると、購入直後のサンクスページ(購入完了画面)で、そのユーザーに合ったオファーが提示されるという仕組みですよね。実際にオファーが提示される際、ユーザーには「詳しく見る」ボタンと、あとで使うボタン「あとにする」の二つのボタンが表示されます。

大野:はい。ユーザーが「詳しく見る」のようなポジティブな選択肢をクリックすると、広告主のランディングページへと遷移し、そこで初めて広告主様への課金が発生します。「購入完了画面」という面に表示されるため、集中してきちんと読まれる方が多く、誤タップもほとんどありません。内容をしっかり読んだ上でポジティブにクリックをした人、本当に質の高い見込み客を送客できるのが強みになると考えています。

また、Roktの特徴として「あとにする」という二つ目の選択肢もユーザーに提示しています。このようなネガティブクリックの選択肢も明示してある広告は、実は珍しいかと思います。こちらを押した場合は当然、広告主には課金されませんが「このユーザーはこのオファーには興味がない」ということはしっかり機械学習に組み込まれるため、以後のオファー提案精度の向上につなげることができます。

星野:このお話を聞くと、ECサイトに広告を出すメリットの大きさを感じるのですが、これまで「EC x 広告」という発想はあまり一般的ではなかったように思います。何かその理由はあるのでしょうか。

大野:ECサイトの目線に立つと、まず当然ながらカスタマージャーニーの途中で広告を出せば顧客の離脱につながってしまうため、自社以外の商品やサービスの広告を出す、というのは戦略上考えにくいでしょう。また、自社のお客さまと直接コミュニケーションを取れる貴重な顧客接点ですから、ブランド感を毀損してしまう懸念のある広告は設置したくない。その他、データの取り扱いなどさまざまな観点から、たとえ収益が上がるとしてもECサイトにとって広告の導入というのは諸刃の剣のようなものです。

その点で、Roktが特化する「購入完了の瞬間」はカスタマージャーニーの終点であり「コンバージョンが取れた後に、ユーザーのさらなるアクションを引き出す」という発想のため、ECサイト目線でのデメリットがありません。顧客体験と収益性どちらの面からもプラスアルファの「アドオン」を生み出すことができる、といった意味で、EC事業者様にとっても受け入れやすいと思います。

星野:確かに、買い物の最中に無関係な広告を表示してしまうと、サイト離れにもつながりかねないですよね。また、ポジティブクリックのみが収益化されるなど、広告主にとっても魅力的ですね。

大野:RoktはECサイトの「購入完了の瞬間」に特化してプロダクト開発をして、そのモーメントに合った広告主様のキャンペーンを集め、表示されるプレイスメントに関しても、基本的には広告主様とわれわれのクライアントサクセスチームが協働しながら最適なクリエイティブを作成するという形で運用しています。そのため、ECサイトの世界観を崩してしまうような広告が出ることはありません。クリエイティブを見ていただいても、基本的に短いテキストと、ごくシンプルな画像のみとなっています。ユーザーの注意を引くための派手なバナーなどを表示するのではなく、もともとユーザー様がお買い物をしていたECサイトでの買い物体験の延長線上にある、ネイティブでシームレスな体験を作り出すことを目指しています。

星野:ターゲティングができる、できないといった点や、機械学習についてはどうでしょうか。

大野:この点に関してまず、Roktではユーザーにとっての「レレバンス」が非常に重要なキーワードだと考えています。ユーザーにとって関連性が高いという意味です。

通常、広告主がデジタル広告を打つ際、意図的にターゲティングしているユーザーセグメントというのは、デモグラフィックやエリアなどの比較的広い属性情報にとどまります。それに対し、ECの購入後であれば、何を買ったか、決済手段は何か、旅行であればどこに行くか、といった粒度が高く正確な情報をAIに読み取らせ、提示するコンテンツ選出の最適化に生かすことができます。

ECの持つファーストパーティーデータと、われわれRoktのAI・機械学習技術を活用してレレバンスの高い広告体験を作り上げるため、弊社ではエンジニアにも多く投資をしています。現在はアメリカ西海岸にもR&D(研究開発)の拠点を作り、プロダクトを磨き上げています。

星野:会員情報、お客さま側が入力するエリア情報などのデモグラフィック、ユーザー行動など、ECサイトがお持ちのファーストパーティデータを学習している、ということですか。

 

 

大野:はい、ECサイトでユーザーが「何を買ったか」「いくら買ったか」「どのような決済手段を使ったか」、そういったトランザクション情報を学習しています。例えばチケット系のECサイトであれば「どういうチケットを買った方に、どんな種類のオファーが受け入れられやすいか」といった学習を蓄積し、オファーの精度を上げるのに役立てています。

星野:確かに、一言で「チケット」といっても、地方の音楽イベントに行くのか、都心の美術館に行くのか、などによって、ユーザー層や、そのユーザーに合うオファーの種類というのは自然と変わってきそうですね。

大野:そうですね。

星野:レレバンスという点で申しますと、例えば、検索広告などは基本的に関連性を担保しやすいと思います。検索した語句に対して、その語句からユーザーのニーズを想像して、どういった広告を表示すればいいのか、関連性の予測が立てやすいからです。Rokt Adsで言えば、ファーストパーティデータをいかにうまく使うかによって、このレレバンスの部分が技術的に向上可能なのだと理解しました。

多様なオファーの中からユーザーにとってレレバンスの高い広告が表示されるのは、いいなと思うと同時に、その広告を表示するECサイト側は、意図しない広告が表示されるリスクは避けたいのではないかと思います。広告はECサイト側でコントロールすることもできるのでしょうか。

大野:ECパートナー様とは導入時、また導入以後も定期的にご相談とすり合わせを行っています。例えば競合にあたる広告主からのオファーは出さないなど、コントロールをかけていただくことがもちろん可能です。

星野:最近、生成AIが普及してきた中で、MFA(Made-for-Advertising。広告のためにつくられたWebサイトの総称)が広がっています。特にGoogle 広告など、ディスプレイのプレースメントを見ると、生成AI系が作ったようなサイトに飛ばされてしまい、アドベリフィケーションの問題などが再び注目されていると思います。

少し危ない広告といいますか、信ぴょう性がないような広告が出てくる中で、この広告はきちんとECサイトが認識の上で出しているオファーだという点は、お客さま側からすると安心できますね。本当に三方よしですし、業界的にも非常によい広告ですね。

大野:ありがとうございます。私たちは、SSPなどの第三者のネットワークと接続することもなく、ECサイト・広告主様双方と本当に1社1社、直接契約を結んでいます。そのため、少し信ぴょう性がない配信面や広告が散見されるデジタル広告の世界で、Roktは、アドフラウド・ブランドセーフティの観点でも自信を持ってECサイト・広告主様にお勧めできると思っております。

2022年の数字となりますが、日本の広告主様のオファーに対するクリック率の平均は、約5%です。ユーザー目線でも、それだけ価値のある広告を見ているということにもなります。クリック率が高いということは、自分に関連しているということで、反対に嫌な広告や無関係な広告ではないということが言えるかと思います。私も長く広告業界に居ますが、一般的な広告ソリューションと比較すると通常の数十倍ぐらいの感覚で、20人に1人クリックするデジタル広告、というのはあまりないと思います。

星野:メガプラットフォーマーに出稿すると、ターゲティングが広いと0.何%という世界だと思います。また、アプリ系に配信されると、どうしても誤タップが多いですよね。クリック率は高くても、そのクリックの価値でいえば信ぴょう性は低いように思います。その点で、Rokt Adsの場合はトランザクション後の瞬間で表示され、気持ちも高ぶっているときに価値ある広告が出てくるため、ユーザーも意思を持って広告をクリックしているということになりますね。

 

導入にあたって費用はかからず、工数もわずか

星野:EC事業者がRokt Ecommerceを、ないし広告主がRokt Adsを導入するにあたって必要なものや期間について、お聞かせください。

大野:通常、EC事業者が一から広告事業を立ち上げようとすると、エンジニアリング、セキュリティの問題、そもそもの広告営業のリソースなど、多くのことを考えなければなりませんが、Roktとのパートナーシップを選んでいただければ、EC事業者様はそれらの課題を一気に解決し、すぐにでも収益創出を実現していただくことが可能となります。

また、Rokt Adsの配信までの流れは、他の広告媒体と大きく変わりません。運用をRokt自身で行っているので、ご発注後、Roktへ入稿していただくプロセスになっています。Roktがフルマネージドで運用を行っているため、出稿条件は厳しいですが、1案件ずつ一緒に成長させていくことを目指しています。動画や要素の多いバナーではなく、テキストとロゴでの掲出が基本になるため、入稿物の準備は比較的シンプルでハードルは高くないと思います。

 

リテールメディアは競い合うよりも一緒に盛り上げていく機運

星野:御社として認識されている競合はいらっしゃいますか。

大野:明確に同じポジションの競合はあまりいません。もちろん「Webサイトの収益化」で言えば、AdSenseのような広告ソリューションもありますが、ECサイトの購入の瞬間に特化しているRoktの立ち位置はユニークだと思います。

星野:御社含めて、いろいろなところでオフライン、オンライン関係なくリテールメディアのサービスが出ている中、Rokt Adsのような新しいサービスが出てくるだけでリテールメディア全体が、競い合うというよりは業界全体を盛り上げていく、という印象がありますが、御社としてもそういった認識でしょうか。

大野:はい。このところ、リテールメディア周りでもプレーヤーが次々と増えてきており、国内でも話を聞く機会が多くなりました。そのような環境の中で、弊社とSupership様との戦略的パートナーシップ締結もそうですが、やはり競合して取り合うというよりは、それぞれが強みとしている領域を生かして、一緒に業界を盛り上げていこうという話になりますね。

リテールメディアの中でも、われわれの立ち位置で言えば「ノンエンデミック」と呼ばれる、ECサイトと外部の広告主とをつなぐ存在となります。通常、いわゆるECリテールメディアといえば「エンデミック型」、すなわちモール系ECサイトの中で、検索連動広告などの手法で出店者であるメーカーやブランドが掲載順位やプレゼンスを上げるために広告を出すという形が主流なので、Roktのように購入後に、外部の広告主様からのオファーを表示するというモデルであれば、食い合わずに共存ができます。

星野:近年、行き過ぎたターゲティングで追いかけられるユーザーが疲れてしまい、同時に広告主側もCPAを追求することで疲弊するタイミングもよくあります。その中で、あらためてマーケティングや広告運用を考えると、Roktのようにユーザーの心証をくみ取った広告も含めてプランニングができると、関わっている方全員が幸せになれるようなイメージがあります。

 

Win-Win-Winを目指してビジネスを展開すれば正のスパイラルが回る

星野:では、最後にメッセージをお願いいたします。

大野:特に広告の目線で言えば、例えば、検索広告、そしてリマーケティングやアフィリエイトもそうですが、ファネルの顕在層にターゲットが偏って、そこに投資が集中しがちな状況があると思います。その中でわれわれは、顧客獲得を目的にご活用いただくパフォーマンスメディアでありながら、必ずしも顕在層だけでなく、トランザクション・モーメントの力を生かして、潜在層からも一気に顧客獲得を可能にできるようなポジションにおります。

それまで認知していなかった商品・サービスだったとしても、自分の関心に合ったものが、買い物に対して前向きなタイミングで、お得なオファーという形で提示されれば、興味を持ち購入に至りやすい、というのは想像しやすいかと思います。どうしても顕在層に投下しすぎて広告効率が頭打ちになっている中で、Roktを導入すると「Rokt Adsを利用しなければ獲得できなかった顧客(=インクリメンタルコンバーション)」を獲得できるといった点が強みです。

実際、例えば世界ナンバーワン、ミールキット・プロバイダーのHelloFresh様では、Roktで獲得した顧客のうち75%は「インクリメンタルコンバージョン」だった、という調査結果が出ています。既存の広告チャネルでの新規獲得効率や規模の限界を感じていらっしゃる運用者の皆さまにとっても、新しいチャネルとして可能性を感じていただけると思います。

われわれは、Win-Win-Winの関係性を目指してビジネスを展開しています。Roktを導入していただくECパートナー様が増えると、配信面が増え、広告主様にとってもパフォーマンスがよくなります。広告主様が増えると、オファーのバリエーションが増え、ユーザー様にとってのレレバンスが高まり、結果的にEC側の収益性もさらに高くなります。こうして生まれるユーザー、EC事業者、広告主の三者にとっての正のスパイラルが回っていけば、Win-Win-Winの関係が大きくなります。ぜひ運用者の皆さまにもRoktをご活用いただき、共にこの輪を大きく発展させていければと願っています。

星野:ありがとうございました。