コメ兵の新たな顧客体験向上施策とは?リテールメディア化が生む“ワクワク”な買い物体験と収益創出事例

リユース大手のコメ兵が進める顧客体験向上の目的は、買い物客のワクワク感の創出。その実現のために取り組んでいる施策の1つが、ファーストパーティデータを活用したECサイトのリテールメディア化だ。自社のECでの広告配信がなぜ顧客体験向上につながるのか? コメ兵営業本部 マーケティング部 部長 兼 営業システム部 部長の諏訪弘樹氏と、リテールメディア化を実現したソリューション「Rokt Ecommerce(ロクト・イーコマース)」を提供するRokt合同会社 ビジネス開発の松田誠が対談を行った。

左:Rokt合同会社 ビジネス開発 松田誠、右:コメ兵 諏訪弘樹氏(営業本部 マーケティング部 部長 兼 営業システム部 部長)

 

※この記事はネットショップ担当者フォーラムの記事を転載・編集しています。

 

「人の介在」「現場力」でワクワク感を創出

コメ兵のECサイトでロイヤルカスタマーがアクティブになるのは毎晩21時頃。新入荷商品がこの時間帯にアップされるためだ。「多くのお客さまが毎日のようにECサイトへ来訪し、特定の商品だけでなく新入荷商品のページをチェックしている」(諏訪氏)。そして、諏訪氏はこう付け加える。

1点モノという中古の特性から、掘り出し物がないか、お客さまは毎日ワクワクしながらサイトを見ている。コメ兵が提供したい顧客体験とは、掘り出し物を見つけるようなワクワク感だ。(諏訪氏)

諏訪氏がこのワクワクの顧客体験実現の源泉としてあげたのが「人の介在」と「現場力」。その例の1つとして電話対応の取り組みがあげられる。メイン顧客が40代後半から60代ということもあり電話注文ニーズも高い。「フリーダイヤルの利用を促すことにも力を入れており、『どんどんお電話ください』といった主旨を積極的にECサイトで案内。有人チャットにもこだわり、極力チャットボットを使わず人が対応する。そのことで、ロボットには読み取れない行間や、隠されたニーズや心配事を読み取るようにしている」(諏訪氏)。人が介在する現場力ありきの接客を通じ、顧客体験の向上に結び付けている。

また、LINEを活用した接客では、商品購入後のフォローやユーザーそれぞれの好みに合わせた入荷案内などを、店舗のスタッフがLINEを使って消費者とコミュニケーションをとる。LINE接客でのキーワードは「一緒に買う」「一緒にコーデ」「一緒に探す」。

LINE接客をするスタッフは、担当する消費者の欲しいモノや持っているモノなどをある程度把握している。たとえば、「一緒に買う」計画を立てるために保有商品の売却を提案したり、他の店舗に在庫がないか探したりと、消費者とスタッフが「一緒」になって動く。

「人が介在」してワクワク感を提供する――。諏訪氏はこの「現場力」がコメ兵独自の顧客体験を創り出していると話す一方、課題もあった。

テクノロジーの進化、消費の多様化などで、ECサイトでの顧客体験を高める取り組みが顧客満足度を大きく左右する昨今。コンタクトセンターや実店舗で提供できているような、1人ひとりの顧客に合わせてパーソナライズされた買い物体験を、ECでも実現できないか。さらなるワクワクを生む顧客体験をコメ兵は模索した。

 

サンクスページを使い新たな提案

 コメ兵はサンクスページでオファーを提案

 

「商品以外の軸での情報提供などでワクワク体験の提供ができないか」(諏訪氏)と考えるなかでたどり着いた1つの解が、「ファーストパーティデータ」を有効活用したアウトプットだった。

その構想はすぐに実現。ECサイトの購入完了画面(=サンクスページ)で、外部遷移する他社のオファー広告を掲載し、新たな情報との出会いを創出するという新しい試みだ。このアプローチは、端的に言うと自社ECサイトのリテールメディア化。ファーストパーティデータによる顧客理解に基づき、1人ひとりの顧客に適したオファーを提案するという、ECでも“ヒューマンライク”なワクワクの創出に挑んだのだ。

ECサイトのリテールメディア化は「Rokt Ecommerce(ロクト・イーコマース)」というソリューションを導入して実現した。ECにおける「購入の瞬間」は、顧客の会員情報や決済情報、購入した商品についての情報などさまざまなデータが得られる瞬間。こうしたファーストパーティデータを活用し、ユーザーにとって関連性の高い、外部広告主によるオファー(お得なキャンペーン情報など)を表示する「Rokt Ecommerce」の導入により、自社商品以外の価値ある情報を届けることに成功した。

オファーを表示する場はサンクスページのみであるため、通常のコメ兵ECのカスタマージャーニーも阻害しない。かつ、コメ兵では提供できていない情報を他社の広告を通じて提供しつつ、広告収入として新たな収益源を確保できる。理想的な取り組みだった。 「Rokt Ecommerce」導入の大きなポイントになったのが、サンクスページを活用するソリューションだったこと。諏訪氏はそこに大きな可能性を感じたという。

お客さまのワクワク体験のノイズになることは絶対に避けたい。サンクスページを活用して外部へ遷移する広告を掲載するという方法は、お客さまの買い物のノイズにならず、自社だけではない情報リソースを届けられる。(諏訪氏)

「コメ兵では商品を購入できるだけでなく、自分に適したうれしい情報も提供してもらえる。新たな顧客体験を実現できると思った」(諏訪氏)と振り返る。

ただ、これまでにない独自のソリューションとも言える「Rokt Ecommerce」の導入にハードルはなかったのだろうか。導入の経緯について聞いた。

 

ハードルその① 離脱の懸念

まず、他社広告を掲載することは外部サイトへ消費者を移動させてしまうことになる。「ユーザーの離脱につながってしまうのではないか」――ECサイトを運営していれば、こんな懸念が出てきても不思議ではない。 「『Rokt Ecommerce』では、顧客が商品の購入を終えた後に広告を提示するため、いわゆるカゴ落ちの懸念がないのが特徴」とRoktの松田氏。ユーザーのカスタマージャーニーの観点では問題がないとコメ兵は判断した。

 

ハードルその② 自社製品の案内をした方が良いのではないか

また、EC事業者にとって、サンクスページは自社のアップセルやクロスセルを促せる場でもある。「他の自社製品提案などで買い回りを促した方が良いのではないか」。こんな声も出てくるだろう。この部分はどう判断したのか。 「コメ兵が扱うのはブランド品が中心で、購入単価が比較的高額になる傾向がある。アップセルやクロスセルはトライしていたが、高額品の購入者に別の高額品を訴求し、コンバージョンにつなげるのは難しい側面があった」(諏訪氏)。また、Roktによると「自社商品のアップセルやクロスセルよりも第三者の広告を掲出した方が、結果的に高い収益性につながるというデータもある」(松田氏)と言う。

 

ハードルその③ 開発面

開発面などの現場負担はどうだったか。「RoktはサンクスページのソースにJavaScriptのタグを貼るだけで簡単に実装できる。また広告事業の立ち上げに不可欠な広告主営業なども不要であるため開発など現場負担はほとんどなく、導入後すぐに収益創出が開始できる」(松田氏)。こうした開発コストやリソースなどの負担が少ないこともコメ兵にとって導入の決め手になったようだ。

 

顧客体験向上の延長線上に新たな収益が生まれると社内プレゼン

このように、「新たな顧客体験」の創出に加え、「付帯収益」も生み出すことができるという観点からコメ兵は「Rokt Ecommerce」の導入を決めた。

社内への説明は「あくまで顧客体験を向上させる延長線上に、リテールメディアという取り組みで新しい収益が生まれるということを説明した」と諏訪氏。「情報コンテンツを届けるという観点では自社でオウンドメディアも運営しているが、記事作成も内製しているため自社リソースだけでお客さまのワクワク体験を向上させる情報発信には物理的な限界もあった。そんななかで、『Rokt Ecommerce』を活用して自社で用意しきれない外部の情報、特に1人ひとりの顧客に合ったお得な情報を届けられるのは、負担も少なく収益も創出できるので最良な取り組みと言える」(諏訪氏)

また、「競合との差別化の観点からも、こうした取り組みにチャレンジすることは必要」(諏訪氏)と考えた。こうしてコメ兵は、2023年からサンクスページの他社広告掲載により、リテールメディア化を実現した。

「Rokt Ecommerce」は「購入の瞬間」にアプローチできる

 

eCPM・CTRは好成績、評価も上々

コメ兵のECサイトのリテールメディア化は成果が出つつある。サンクスページのeCPM(広告1000回表示あたりの収益)は平均約8000円、時には1万円を超えることもあるという。「導入事業者のなかでもコメ兵はかなり好成績。『Rokt Ecommerce』は機械学習によって広告の表示精度を高めるため、eCPMは上下する傾向にある。それでも導入して間もないコメ兵の実績は高水準」(松田氏)と言う。

また顧客からのエンゲージメント率もかなり高いという。コメ兵のサンクスページで表示されたクリエイティブへの平均クリック率は11.9%と他の導入事業者と比較して高い。「クリック率がここまで高い媒体はなかなかないのではないか。コメ兵が持つファーストパーティデータそのものの質が高いからこその実績だ」(松田氏)と絶賛する。

サンクスページで外部へ遷移する広告が表示されるが、ユーザー側の反応はどうか。

コンタクトセンターなどお問い合わせ内容をチェックしているが、サンクスページでのご案内についてお客さまからのネガティブな意見は今のところ1つも聞いていない。eCPMやクリック率の傾向を踏まえると、お客さまにとって有用な情報をお届けできている。つまり、お客さまはポジティブに受け止めているのではないか。eCPMやCTRの推移を見る限り、1つの良い顧客体験の提供につなげられているのではないかと推測できる。

導入後の社内評価も上々だ。経営陣や事業開発部門は収益というよりも「お客さまがどんなことに興味を持っているのか」といった部分について大きく関心を持っている。これまでアンケートやヒアリング、対面インタビューなどを通した顧客理解を進めてきていたが、「自社のお客さまがどんなカテゴリの広告に対してより積極的に反応しているか」など、これまでは見えていなかった部分に迫ることができており、今後の広がりにも期待が寄せられている。自社ECサイトのなかの動きだけでは得られないユーザー心理や興味・関心といったところを知れるようになってきていると実感する。(諏訪氏)

 

第2フェーズへ、配信面の拡大も視野に

コメ兵では現在の取り組みを第1フェーズと捉えており、さらなるリテールメディア化や顧客体験の向上も視野に入れている。「『まずはお客さまの反応を見たい』という思いが強くミニマムでスタートさせた段階」(諏訪氏)だ。

現在は「Rokt Ecommerce」をECサイトの購入完了のサンクスページのみに実装しているが、その他のタッチポイントにも広げることも視野に入れる。

コメ兵のECサイトにはサンクスページに該当するものとして店舗での商品取り寄せ手続き完了ページ、来店予約完了ページなどもある。「別のサンクスページにも広げていくなど、第2フェーズの可能性を探っている」(諏訪氏)

諏訪氏は「第1フェーズの取り組みで、今回初めて見えてきたお客さまの行動なども含め、もっとファーストパーティデータを精度高く管理していきたい」と説明。加えて「リテールメディアという観点では、コメ兵は実店舗網もあるので、オフラインとも絡ませた取り組みを今後何かできないかとも考えていきたい」(諏訪氏)と展望を語った。