スポーツ用品のゼビオがRoktを導入し、自社ECをリテールメディア化 購入直後の広告表示で「付帯収益」を創出

 

近年、流通・小売業を中心に「第二の収益の柱」として存在感を増しているのが「リテールメディア」だ。Eコマーステクノロジー企業Rokt(ロクト)の「Rokt Ecommerce」は、そうした流通・小売業のECサイト上でユーザーの購入直後のタイミングで外部広告主からのオファー表示をするサービス。データ利用の規制が強まる中、ファーストパーティデータの活用によって個々のユーザーに対して親和性の高い広告が提示できることから、非常に高いクリック率を実現している。

2024年3月7日から9日まで開催された、国内外の直販・通販事業に携わるトップマーケッターが250名集結するカンファレンス「ダイレクトアジェンダ2024」では、Roktでビジネス開発を担当する松田誠氏と、本サービスを導入したゼビオコミュニケーションネットワークス マーケティング部次長の坂紀子氏が登壇。

リテールメディアによる広告収入という新たな収益を打ち立てようとしているゼビオでは、なぜRoktをパートナーとして選び、どんな成果につながっているのか。導入のハードルも含めてリアルな感想を聞くことができ、観客投票である「アジェンダアワード」2位を獲得するなど盛況を博した当セッションをレポートする。

※この記事はAgenda noteの記事を転載・編集しています。

 

ビジネスの競争力高める「付帯収益」

「これからのビジネスの成功は『付帯収益』がキーワードになります」。冒頭、Roktの松田氏は熱く切り出した。たとえばAmazonの場合、本業であるECは実は赤字である。代わりに利益を出すのは広告などの付帯収益だ。7兆円以上を稼ぎ、ECの値引きの原資や配送センターの整備などに充てている。

「AmazonのECは非常に安くサービスレベルも高い。リーダー企業は付帯収益によって競争力を高めている。そうした企業と戦うためには、同様に付帯収益を得るビジネスモデルを確立する必要があります」(松田氏)

Rokt ビジネス開発 松田誠氏。「『購入の瞬間』に宿る価値を解き放つ! XEBIOから学ぶリテールメディア戦略」をテーマに登壇

 

実際、Bain & Companyが全世界で実施した調査では、2030年に向けて付帯収益を向上させ、本業の競争力を高めていくトレンドがあることがわかったという。予想では、2030年に全事業のうち付帯収益の売上は35%、利益ベースで50%に達すると言われる。

「本業が50%、付帯収益が50%の利益構造ということは、財布を2つ持った状態ということです。この流れについていけなければ、競合とどう戦っていくべきか途方に暮れることでしょう」(松田氏)

付帯収益を得るには、自社の顧客データを売ったり、配送センターを貸し出したりなど様々な手段が考え得るが、中でも注目されているのがメディア&広告だ。「2023年のリテールメディアの市場規模は世界で約20兆円。うまく活用することで付帯収益を拡大させ、本業の競争力を高めていくことができるのです」(松田氏)

事例として松田氏が紹介したのは世界最大のリテール企業ウォルマートだ。

「ウォルマートの全社の成長率は6%である一方、リアル店舗の成長率は4.4%、ECの伸びは23%。最も強力な成長ドライバーであるリテールメディア(広告)は28%伸長しているのです」

ウォルマートのCFOが「5年後には付帯収益が本業を超える」とコメントしているように、成長する企業は付帯収益を伴うビジネスモデルを構築できていることが当たり前になる、ということだ。

 

購入直後に大きなビジネスチャンス

ECにおけるリテールメディアは、いわゆるスポンサードプロダクト広告のように、顧客が購入完了する前に他の関連商品の広告を表示し、カートの内容物を増やしていくという方法が一般的だ。

しかし松田氏は「実は購入直後にもっとチャンスがあります」と語る。

「購入する瞬間、これを我々は『トランザクション・モーメント』と呼んでいるのですが、ここに非常に大きな経済価値が眠っています。なぜなら、その瞬間にECサイトはお客様についての様々な情報をファーストパーティデータとして得られて、分析・活用できるわけです。また、購入するときのお客さまは画面に集中しています。こうしたタイミングに魅力的なオファーを出すことで、反応は他に比べて7倍高くなるという結果も出ています。トランザクション・モーメントに着目して、その経済的価値を最大限引き出そうというのが『Rokt Ecommerce』です」(松田氏)

購入を完了した時、瞬時に顧客を分析し、次の最適なアクションを提案する

 

「Rokt Ecommerce」は、買い物を終えた直後の顧客の購買意欲がピークに達している瞬間に、一人ひとりの顧客に合ったオファーだけが提示されるため、クリックされる確率が高く、顧客の満足度にもつながりやすいという仕組みだ。

ゼビオコミュニケーションネットワークスは「Rokt Ecommerce」を活用している企業の一つだ。

ゼビオコミュニケーションネットワークス マーケティング部次長 坂紀子氏

 

ゼビオグループは「スーパースポーツゼビオ」「ヴィクトリア」などでスポーツ用品を販売するほか、アリーナ運営や東京ヴェルディのスポンサー、ファッション事業、メディアやクレジットカードの運営など、スポーツを中心に多角的な経営を行っている。

坂氏が所属するゼビオコミュニケーションネットワークスは、ゼビオグループの成長を支えるEC事業や新規事業を担う企業だ。ECは自社ECのほか、楽天などモールへの出店も行う。

「ECモールは非常に大きな売上を得ることができています。ただ出店料や手数料がかかるので難しさもあるというのが正直なところ。利益をしっかりと確保できる自社ECに注力しています」(坂氏)

リテールメディアに着目したのも、物販に加えた第二の利益をいかに創出するかを、考えたことがきっかけだった。

リテールメディアに関する各種サービスから「Rokt Ecommerce」に決めた理由は三つ。一つ目は「顧客の離脱やブランドロイヤルティへの悪影響の懸念が無いから」だ。

「以前、導入を検討したことのあるサービスは、ECの主要動線であるトップページや商品一覧、商品詳細ページにも広告が出てしまうものでした。『Rokt Ecommerce』の場合、広告枠は購入完了後のサンクスページのみという点が非常にいいなと思いました」(坂氏)

二つ目は「広告主を探す必要がないこと」。それゆえに「導入ハードルが低い」というのが三つ目の理由だ。

「自社で広告を販売しようとすると、まずは広告枠を企画・制作して広告主に売り、更には運用してレポートを出すという一連の業務を遂行する必要があります。リソースが潤沢にあればいいのですが、営業や企画、制作も含めてそこまで自社でできないというときに、『Rokt Ecommerce』は導入だけでそれが全てできてしまうというハードルの低さが決め手となりました」

 

最適広告でクリック率12%

ゼビオが「Rokt Ecommerce」を実際に運用し始めたのは2023年12月。初めは「様子見」として、全サンクスページの50%に表示するところからスタートし、2カ月かけて100%表示に拡大していった。

ゼビオのECサイトで購入完了後のサンクスページに表示されるオファー例

 

導入後の成果は、eCPMが1万1000円、クリック率(CTR)が12%。Webサイトにバナー広告を貼ったときのeCPMが一般に60~100円であることを考えれば、非常に大きな数字だ。クリック率についても通常のWeb広告は0.01%といった世界であることを考えれば、驚異的と言える。

「これほど高い収益が生まれるのは、購入直後というお客さまが非常に集中している瞬間にフォーカスしているからです。またファーストパーティデータを分析して、ターゲットに最適な広告を表示することができるのもクリック率に大きく貢献しています」(松田氏)

導入から3カ月で、すでにこの結果が安定して得られているという。今後もさらなるデータ活用でパフォーマンス向上が期待できる。さらに、この広告表示による収益が全て自社の利益になることも大きなメリットだ。

「サブスクリプションではなくライセンス費用もありませんので、導入や維持にコストは一切かかりません。導入いただけば、すぐに収益が生まれ始めるモデルです」(松田氏)

 

坂氏によると、導入時には個人情報のセキュリティ面やブランドロイヤルティの低下、顧客の問い合わせ増加によるカスタマーサービスへの負荷などが懸念されたが、導入後それらの事象はほとんどなく、不安要素も解消されたという。

「自社のファーストパーティーデータは誰とも共有されることはなく、また表示する広告は我々が選択することができるので競合の広告が出るようなことはありません。広告収入とECサイトの回遊性の高さによる売り上げの両立も実現しました。問い合わせも3カ月間で1件だけ。それもネガティブな問い合わせではなかったので、カスタマーサポートからも安心の声が届いています」(坂氏)

「何よりもサンクスページだけで実現できるソリューションというのが素晴らしい」と、顔を綻ばせる坂氏。「『Rokt Ecommerce』はリテールメディアを始めたい方が最初に選ぶべきサービスと思っています」と熱弁し、セッションを締めくくった。